第31期竜王戦 第6局 羽生善治竜王vs広瀬章人八段 1日目感想

今回の竜王戦に勝利すれば通算100期のタイトル獲得となる羽生善治竜王に, 広瀬章人八段が挑戦する第31期竜王戦7番勝負。 1,2,5局目は羽生竜王がリードを最後まで守り切り勝利,3,4局目は羽生竜王がリードするも広瀬八段の粘りに屈して敗北し,ここまで3勝2敗となっています。 

第6局は鹿児島県指宿市「指宿白水館」で行なわれます。 白水館は羽生竜王が永世7冠を達成した,羽生竜王としては縁起がいい地。 羽生竜王としてもここで決めきりたいところでしょう。しかし広瀬八段としても久しぶりのタイトル獲得を目指して死力を尽くしてくるに違いありません。

さて,本局は広瀬八段の先手。初手は▲2六歩と居飛車を明言しました。 それに対して羽生竜王も△8四歩と飛車先を突き合い,相掛かりの出だしとなります。 本シリーズ初の相掛かりとなると思いきや,広瀬八段の5手目は▲7六歩。 角換わりを注文します。

図1 5手目▲7六歩
ここで羽生竜王が△3二金と指せば角換わり,△3四歩と指せば横歩取りの進行になります。 最近は横歩取りでは先手の青野流が強力で,後手が横歩取りを避ける傾向にあったため,本局も角換わりに進むと思われましたが…。
図2 6手目△3四歩
羽生竜王の6手目は△3四歩。横歩取りを受けて立ちます。 今回の竜王戦は羽生竜王の序盤の戦型選択が面白く,現在の流行とは少し外れた変化を試みているような気がします。△3四歩と突いたということは青野流への対策がありますよと明言しているに等しく,ここからの羽生竜王の指し手に注目です。

そこから定跡通り横歩取り3三角型に進み,17手目▲5八玉と広瀬八段はやはり青野流を選択します。

図3 17手目▲5八玉
ここでの後手の指し手としては

  • △2二銀から△4二玉と3二の金に紐をつけてじっくり指す。展開によっては銀冠にしたり玉を5二に戻したりを臨機応変に戦う

  • △5二玉と突っ張って指す。3二の金には紐が突いていないので先手に▲4五桂とされたときに角が逃げられないため,先手はそれを狙って激しく動いてくることが多い。後手は先手の攻めに丁寧に対応していかなければならないため,非常に神経を使う

が考えられます。直近の例としては12月5日のB級2組澤田六段-永瀬七段戦があり,永瀬七段は△5二玉を選択しました。 その将棋では先手が両桂馬を跳ね出し先手が十分に見えましたが,永瀬七段が持ち前の受けの強さで丁寧に受けきり勝利しています。 その将棋を下敷きにして,本局では羽生竜王横歩取りに誘導したのかもしれません。

局面は進んで28手目,羽生竜王は△8六歩と垂らします。これは先述の澤田永瀬戦と同様の進行で,次に△8七歩成▲同金△8九飛と金銀両取りを狙っています。

図4 28手目△8六歩
▲8八銀や▲8八歩などで受ける手もありますが,流石に利かされでしょう。 澤田永瀬戦では一旦▲2二歩△同銀をいれて銀を2筋に移動させた後で▲6五桂と跳ねて玉頭を狙っていきましたが,本譜は単に▲6五桂と跳ねだしていきました。 澤田永瀬戦との違いはどこで現れてくるでしょうか。

▲2二歩△同銀の交換が入っていないだけで,その後は澤田永瀬戦と同様の手順で進んで35手目▲7七金。

図5 35手目▲7七金
角道が止まっているのは先手としても不満ですが,後手の飛車は取れそうですし6五桂も力を発揮しそうです。澤田永瀬戦では△6四歩と強く桂馬を取りにいきましたが,本譜で突くとどうでしょうか。

以下▲5三桂成△同玉▲8三飛△4二玉▲4五桂くらいが普通の進行に思います。この4五桂が次に▲5三飛(桂)成と▲8一飛成~▲5四桂の両方を狙っていてとても味がいい。以下△4四角▲8一飛成の進行は後手がまずそうです。

ということで本譜は△5四角と角を打って桂馬を取りにいきます。この手は直接的な狙いは桂取りですが,進行によっては3六の地点に飛び出して玉のコビンを狙ったり,6五の桂が動いたときに8七の地点に利いていたりなど複数の狙いをもった難しい手です。 この局面は手が広く控え室では▲8五飛,▲5三桂成~▲5六飛,▲5五飛など先手も飛車を投入して切り返しにいく手が検討されていたようです。

本譜は広瀬八段が▲5五飛を選択し,以下△6二銀▲4五桂△4二銀と中央に戦力を集中させました。ここまで桂馬が跳ね出せれば気分としては最高かなぁという感じです。後手としてはちょっと間違えると一気に悪くなりそうで嫌な気分ですよね。

その後5三の地点で精算して,手にした銀で45手目78銀打と飛車を確保しにいきました。流石に飛車をタダで上げるわけにはいかないので角と差し違えて次図。

図6 47手目▲8八同銀
この局面では△7三桂が第一感で遊び駒を使って▲8五飛を防ぎつつ,△6五桂を使って味がいいと思いました。羽生竜王も当然その手順も深く読まれたことと思われますが,本譜は△3七角と飛車を狙いつつ遠く8二の地点に利かせました。
図7 48手目△3七角
この局面で1日目が終了し,広瀬八段が30分考えて封じ手を行ないました。 この局面は普通の手だけでも▲8二飛や▲2五飛,▲8五飛,ちょっとひねると▲6六金や▲5四飛~▲2四飛など非常に手が広いと思います。

この局面では▲8五飛とすれば飛車成が防げないのでまずはそこから考えてみたい。以下△7三桂▲8二飛成△6二銀▲2四飛△6四角成▲2一飛成△3一金▲1一龍△6五桂が一例としてあげられます。先手は龍を二枚作った上に香得で普通に考えれば先手がよさそうですが,後手も最後の△6五桂が龍取りと7七の金取り,5七の地点を狙うなど複数の狙いを持っていて味がいい。かなりいい勝負と思います。

自分が指すなら▲8五飛ですが,前局での封じ手で広瀬さんはちょっとひねった手を封じてきたので,封じ手は▲5四飛を予想します。 以下△同銀▲2四飛と打って桂銀両取りがかかります。もし後手に2歩あれば△2三歩~△5三歩と謝っても戦えると思いますが,後手は1歩しか持ってないので受けは難しそうです。 仕方ないので後手も攻め合ってくると思いますが,個人的には先手に分がある戦いと思います。

なんにせよまだ大きな差はついていないと思うので明日も激闘が期待できそうです。 明日も朝からドキドキが止まらないような気がします。

ではまた。